旅が始まるその瞬間に──カタール航空Qスイートで巡る、成田からモロッコまでの旅路

成田で迎える旅のはじまり

夕暮れの成田空港。

カタール航空のチェックインが始まるまでのわずかな空白時間を、

わたしたちは展望デッキで過ごすことにした。

沈んだ陽のあと、少しむっとした生ぬるい空気が肌に触れる。

滑走路の輪郭を、ライトの列が静かに照らしていた。

ちょうど、これから乗る予定の機材が、遠くからゆっくりと姿を現した。

B777-300ER。

飛行機に詳しい夫が、その特徴を嬉しそうに教えてくれる。


私はまだうまく見分けがつかないけれど、

楽しそうに好きなものを語られていると、こちらまで楽しくなってくる。

デッキで過ごす、日常と非日常のちょうどあいだ。

まだ何も始まっていないけれど、確かに何かが動き始めている。

そんな気配に包まれて、わたしたちは旅の始まりを楽しんでいた。

20分ほど過ごして、そろそろチェックインカウンターへと向かう。

しかし、すでに長蛇の列。

ビジネスクラスもエコノミークラスも、それぞれに時間がかかっている。

少し早めに並んでおけばよかったな……と思いながら、列の最後尾に加わった。

無事に荷物を預けて、ようやくたどり着いたJALサクララウンジ。

カタール航空利用者は、同じワンワールド系列のJALのラウンジを使わせていただける。

モダンで落ち着いた素敵な空間。

フライトの前にシャワーを浴びたくて、アプリで来たる順番を確認しながら、

少し急ぎ足でビュッフェのビーフカレーをよそう。

このカレーが、ほんとうにおいしい!

らっきょうを添えたお皿を見て、隣に来た外国人の方が、

“Is that good?”

と尋ねてきた。

“Very good! Japanese style.”  

と伝えると、

“Then I’ll try it too.”

と、彼も真似してらっきょうをトッピングした。

なんだか嬉しそうだった。

こういうささやかな瞬間が、旅の記憶にそっと差し込まれていく。

スマホで逐一順番をチェックしながらカレーを頬張り、

ほどなくしてシャワーの順番が来た。

ブースの扉を開けた瞬間、日本らしい清潔感にふっと力が抜けた。

カラッとした乾燥した浴室に、空間の香りも心地良い。

これから始まる海外旅行前に、

こんなに清潔な空間を味わって良いものかと思ってしまうほど。

備え付けのアメニティも当然のように行き届いているし、

腰をかけられる椅子があって、モダンな日本の湯文化を感じられる。

長旅の前に、心と身体がほどけていくような時間だ。

旅はまだこれから。

だけど、このひとつひとつの準備が、きっと後から深く沁みてくる。

ラウンジの窓から見えた63番ゲートの向こうに、

カタール航空の機材が待っていた。

展望デッキで見たあの機影が、今度はわたしたちを乗せてくれる。

静かに整えられていく気持ち。

その余韻を胸に、わたしたちはいよいよ旅の本編へと足を踏み入れた。

極上のQスイートで過ごす、贅沢なフライト

乗り込んだのは、カタール航空のビジネスクラス「Qスイート」。

「ほぼファーストクラス」とも名高いこのビジネスクラスのしつらえとサービスは、

そのすべてが、予想を超えていた。

上質で柔らかなシート、品のある照明、パーテーションで仕切られた静かな空間。

ひとつひとつが、丁寧に設えられている。

飛行機というより、どこか遠い異国のホテルの一室にでも紛れ込んだよう。

座席は、体をゆったりと伸ばせるフルフラット仕様。

足元の広さに、思わず、深く息を吐く。

限られた空間の中で、これだけの余裕があることに驚いた、

というより、これから始まる長旅に備えて安心した。

そんな広がりだった。

その座席に身を任せる自分のことも、なんだか大切に感じられる。

食事はコース仕立てで、ナプキンを敷いてサーブしてもらう。

まるで高級レストランでの夕食のような時間がを機内で過ごせることが、

なんとも不思議だった。

夫とシェアしながらいただいた料理はどれも絶品。

ほっぺたが落ちるとは、このことか。

そして、私が何よりも忘れられないのが、オレンジジュース!

一口飲んだ瞬間に、果実の香りがぱっと広がる。

世界で一番美味しいオレンジジュースだと確信した。

甘すぎず、でもはっきりとしたオレンジの酸っぱさがあって、瑞々しい。

美味しすぎて、ひと息ごとにまた一口。

気づけば、4杯も頼んでしまっていた!

きっと担当CAさんに「ジュースの日本人」と思われただろうな。

あまりにオレンジジュースばかり飲んでいるので、そんな私を夫が記念に撮ってくれていた。

モニターで見たい映像を選ぶより先に、オレンジジュース。

あとになって、ドーハ発のビジネスクラスではこの味に出会えなかったとき、

この美味しさは、Qスイートだけにある宮殿の魔法だったのだと気づく……。

世界一のジュースは、あの空の上にしかなかったのかもしれない。

カタール航空のビジネスクラスには、ディプティックのアメニティがついている。

「これだけでいくらするんだろう?」と考えてしまうほどの立派な素材と作りのポーチ。

男女でポーチデザインが違うものの、中身は同じだった。

(写真左は私、右は夫のもの。)

新品未使用の印の留め具がなかなか開かなくて尋ねると、

CAさんが“フンッ”と笑顔で力技で開けてくれたのが、なんとも可笑しかった。

ポーチの中には、リップバームや香りのいいトワレ、ふかふかの靴下まで。

眠りの準備がひとそろい詰まっていた。

あまりに上等なもんだから、

なんだかもったいなくて、しまい込んでしまう……。

食後は、CAさんが丁寧にベッドメイキングをしてくれる。

枕もクッションもふかふかで、眠りに落ちるまでの時間は一瞬だった。

F1コラボのナイトウェアはとても肌触りが良く、ぐっすり眠れた。

目が覚めたときには、朝食の時間。

日本食のお粥とチキンの温かさが、寝起きの体に沁みていく。

世界でもトップクラスのサービスを提供するカタール航空。

“ビジネスクラス”にしては、不思議なくらいお得だった座席。

そして、さらにQスイート!

驚くほど贅沢で、やさしい時間だった。

「旅に出る」という行為そのものを、

まるごと祝福してくれるような特別な空間だった。

メイクを整えて、身支度をする頃には、

旅の次の章が、もうすぐそこまで来ていた。

トランジットのドーハ空港につく。

ドーハの朝、ガーデンラウンジでひと休み

ドーハ空港に降り立ったのは、早朝4時。

まだ暗い時間かと思いきや、空は驚くほど明るい。

街も空港も、すっかり目覚めているようだった。

ドーハ空港

到着ゲートを抜けると、目の前に現れたのはオアシスのような室内庭園。

緩やかに曲がった小道に沿って、たくさんの木々が植えられている。

ベンチには体を休める人たちがぽつりぽつりと腰を下ろし、

地面に横になって仮眠をとる人の姿もある。

ドーハ空港 ガーデン

ここが殺風景な空港なら、どこか緊張が走るかもしれないけれど、

グリーンがあるだけで、こんなにも穏やかな時間が流れるのだと気づかされる。

この空港は、おもてなしの美意識があふれている。

壁の豪華な装飾や、なんとも目的のなさそうな巨大モニターの並び。

そんな余白の豊かさにオイルマネーの力を感じながらも、うっとり見惚れてしまう。

オアシスを抜け、向かったのはカタール航空の「ガーデンラウンジ」。

ドーハ空港 ラウンジ

ルイ・ヴィトンの近くにある洗練されたエスカレーターを上がると、

光と緑に包まれた開放的な空間が広がっていた。

ドーハ空港 ガーデンラウンジ

世界中の旅人が行き交う巨大空港のなかで、

そこは少し静かで、すんっと整った空気が流れている。

真下には、さきほど歩いた庭園が見下ろせた。

ドーハ空港 ガーデンラウンジ

ラウンジの内部は、落ち着いたトーンで統一されている。

置くだけで使えるチャージスポットや、ディプティークの上品な香りが漂う清潔な空間。

お手洗いには常に清掃スタッフがいて、どこも気持ちよく整えられていた。

細部まで心配りの行き届いた場所に、旅の疲れが少しずつほどけていく。

ドーハ空港 ガーデンラウンジ

しばらくゆっくりと過ごしたあと、ラウンジ内のシャワーを予約した。

カウンターで搭乗券を見せて順番を待つ。

肉声で呼ばれるので、あまり遠くに離れず、そっと耳を澄ませながら待つ時間も悪くない。

シャワールームは数が多く、思ったよりもすぐに順番が来た。

室内はとても清潔で、もちろんアメニティはディプティック。

ドーハラウンジ ディプティック アメニティ

ミニサイズの使い切りの新品が用意されていて、そのまま持ち帰れるのが嬉しい。

モロッコ旅行中、とても重宝した!!

(※中央ラウンジ・クワイエットルームのシャワーブースは備え付けだったので、持ち帰りはできませんでした。)

ドーハ空港 ガーデンラウンジ

長旅の合間にこうしてリセットできる環境は、ほんとうにありがたかった。

これからまた、半日近い旅が続く。

ここは、空から降りてきた旅人たちが、

一度地に足をつけ、また次の空へと向かうための小さな宿のような場所。

そして私も、心をひと呼吸整えて、次の空へと向かう準備ができたのだった。

光と水に包まれた、もうひとつのラウンジ

ドーハ空港 クマ

空港の中央に、ぽつんと座る大きな黄色いクマ。

ドーハ空港名物の有名なアート作品。

この不思議なオブジェの前では、世界中の旅人たちが足を止めて写真を撮っている。

私たちも自然と足を止め、思わず笑顔になる。

ドーハ空港 中央ラウンジ

そのすぐ右手に、静かに佇むエレベーターがあった。

目指すのは、その上にある、ビジネスクラス専用のラウンジ。

こちらもカタール航空のラウンジ。

先ほどガーデンラウンジを楽しんだばかりだけど、せっかくなら両方行ってみたいよね。

エスカレーターでゆっくりと上がっていくと、

そこには、水と光に包まれた空間が待っていた。

ドーハ空港 中央ラウンジ

事前に写真で見ていたラウンジは、もっとギラギラした印象だったけれど、

実際に足を踏み入れてみると、その印象はまるっと裏切られた。

そこは光と水に満ちた静寂の世界。

ガラス張りの壁から明るい光が差し込み、

床をすべるように広がる水面は、やわらかで音もなく佇んでいる。

そしてその隣の螺旋階段を登った先に、ダイニングエリアがある。

軽く朝食をいただきたくて、

私たちが案内されたのは、室内寄りのソファ席。

窓際の人気席には座れなかったけれど、

入り口の水面を見下ろせる開放的な場所だった。

ドーハ空港から見えるドーハの街

朝食メニューは、テーブルのQRコードから確認できた。

注文を待つ間に、ビュッフェを少しのぞいてみると、

色とりどりに並べられたトースト、サラダ、ヨーグルト。

前菜のオリーブや、サーモンなどどれも丁寧に並べられていて、

見ているだけでワクワクする。

ドーハ空港 中央ラウンジ ダイニング 朝食

しばらくゆっくりと朝の光を感じながら、ドリンクを片手に深呼吸する。

このラウンジは、まるで旅の途中にふいに現れた、静かな美術館のようだった。

やがて時計を見て、ボーディングタイムが近づき、ふたたび立ち上がる。

搭乗ゲートへ向かうと、ビジネスクラス専用のバスが待っていた。

ドーハ空港 カタール航空 ビジネスクラスバス

上質な素材の椅子と、広々とした車内。

ただ飛行機へ向かうためのバスでさえ、高級感に満ちている。

ドーハ空港 カタール航空

バスの窓からは、どこまでも広がる滑走路と、

朝日に照らされた、たくさんの飛行機の姿が見える。

カタール航空 エアバス

並んでいるほとんどが、カタール航空の機材。

空に向かう前の、最後の地上の時間。

この移動すらも、まるでラッピングされた贈り物のように、

旅の一部として大切にされている気がした。

ここで過ごした時間は、確かに“移動の途中”だったけれど、

この場所もまた、忘れがたいひとつの目的地。

 旅の途中で出会った、静かで上質なご褒美だった。

カタール航空、本当に良い!

カタール航空 ビジネスクラス座席
カタール航空 ビジネスクラス座席

ドーハからモロッコのカサブランカまでは、Qスイートではなく普通のビジネスクラス。

Qスイートの個室感はなく、その分開放的な座席だった。

私はなんとなくこっちの方が好きかもしれない。

ビジネスクラス

けれど、もしカタール航空でビジネスクラスに乗る機会がある人は、

機材が何なのか、調べてチケットを取ることをおすすめします。

ぜひQスイートの旅を味わってみてほしい。

モロッコ到着、カサブランカ空港

カサブランカ空港到着

空の長旅を終え、カサブランカ空港に降り立った。

肌に触れたのは、乾いた空気と、熱い陽ざし、それに砂の匂い。

どこか懐かしく、それでいて新しい気持ちになる空気。

24時間かけてやってきた別の世界の入口が、ゆっくりと開いた気がした。

入国審査で、日本のパスポートを差し出すと、係員がにやりと笑いながら言った。

“You are… Nami. And you are Sanji.”

ワンピースが好きなのかもしれない。

“And you?”

と聞き返すと、


“Hmmm… I’m Zoro.”

こんな楽しい入国審査があるのか。

彼の茶目っ気に、疲れも少しほどけた。

預け荷物は、のんびりのんびりと出てきた。

旅の始まりからちょうど丸一日。

途中の空港でシャワーを浴び、

ビジネスクラスでからだを伸ばして移動中もしっかり休めたとはいえ、

やっぱり長旅だったなあと実感する。

でも、不思議と元気だった。

カラリとした空気がそうさせるのか、ここに来たという達成感なのか。

モロッコの太陽が、どこか誇らしげに空を照らしている。

両替所で、日本円をモロッコディルハムに換える。

事前に考えていたチップ用の細かい硬貨は「扱っていない」とのこと。

これは少し工夫が必要かもしれない——

なんて思いながら外へ出ると、そこには数十人のドライバーが並んでいた。

国際空港によくある光景。

札を掲げ、ゲストの名を呼ぶ声。

私たちの名前は……見つからない?

一度ぐるりと回って、もう一度よく見ると、いた。

札を一時的に下げていたのか、少し見逃してしまっていた彼は、

サングラスの似合う、どこか“抜け感”のあるシティーボーイ。

モロッコでも間違いなく“1軍”の風格に、思わず夫と顔を見合わせてしまう。

旅先で出会う、こういう“印象深い人”って忘れられない。

なんとなく年齢も近そうだ。

名前は、ブライン。笑顔で握手を交わす。

Welcome to Morocco!!!

イスラム圏では異性との握手は控えるべきかと思っていたけれど、

自然に差し出された手に、私も自然に応えた。

彼の案内で向かった車は、なんと大型のバス。

これを、私たちふたりで貸し切りに…?

なんという贅沢!

モロッコ ツアーバス

車内に流れていたのは、心地よいビートの効いたモロッコ音楽。

どれもShazamしたくなるほどかっこよくて、思わずスマホを構える。

いよいよ、ここから旅が動き出す。

乾いた風と、陽ざしの匂いとともに。

モロッコの空気が、そっと私の中に入り込んできた。

深呼吸するたびに、この国の始まりが確かに自分のものになっていく気がした。

シャウエン編につづく。

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