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朝のテラスから眺める、青の街の輪郭

翌朝、白い光で目を覚ました。
カーテンから差し込む朝日に助けられ、疲れが残る身体をゆっくりと起こす。
昨晩の街の活気を思い出した。
窓の外を見ると、青い街を見下ろせた。
まだ静かな朝に、ぽつりぽつりと人の姿が見える。
このホテルはとても高い丘の上にある。

ホテルの朝食会場へ向かうと、すでに多くの宿泊客が朝の時間を楽しんでいた。

窓の外のプールの水面が、陽の光を受けてきらきらと揺れている。
テラスへ出ると、シャウエンの街が一望できた。先ほど部屋から見た景色だ。

丘の上から見下ろすその光景は、これから色づき始める絵画のようだった。
朝の白い光に照らされた青。
何層にも重なる家々の壁、曲がりくねった路地、遠くに見えるモスクの塔。
そのすべてが、ほんの少しずつ、光をまとって浮かび上がろうとしている。

朝食はビュッフェ形式。
もう大半の料理は食べ尽くされていて、
わたしたちは残り少ないパンとフルーツをそっとお皿に取り分けた。

今日の予定は、シャウエンの街の朝さんぽと、フェズに向かう道。
これから始まる旅にワクワクする。

朝食を終え、荷物をまとめてチェックアウト。
ドライバーとの連絡に手間取っていると、ホテルのスタッフが親切に手伝ってくれた。
電話をかけてくれたり、荷物を気遣ってくれたりと、モロッコの人の優しさに触れる。
その温かさが、朝のやわらかい光と相まって、心をふわりとほどいてくれた。
このホテルの滞在は短かったけれど、
丘の上から見たシャウエンの景色は、たぶん、ずっと忘れない。
これから始まる「青の街」のほんの入り口。
あの輪郭の先に、どんな景色が待っているのか。
わたしは、小さな期待を胸に、ホテルをあとにした。
青の小道と、オレンジの誘惑

ホテルを出て、シャウエンの街をほんの1時間半ほど歩いてみる。
ほんの短い時間でも、シャウエンの魅力をぎゅっと感じられた。
街に足を踏み入れた瞬間、
思い描いていたよりもずっと静かで、鮮やかな青が目の前に広がった。

ガイドブックやSNSで何度も見た風景。
だけど、空気の温度や匂いとともに、“画面では知り得なかった青”が、そこにはあった。

光の当たり方で、同じ青でも違って見える。
濃く深い影のような青、少しだけ白みがかった柔らかい青。

路地の奥へと進むほど、光と影が複雑に絡まり合って、
まるで夢の中を歩いているような感覚になる。


10時に近づくと、街に少しずつ商品が並びはじめた。
色とりどりのバブーシュや革のバッグ、マグネットやタイル。
どれも鮮やかで、見ているだけで楽しい。

果物屋の店先には、山盛りのオレンジが並んでいた。
その瑞々しさに、思わず足が止まる。
青い壁を背景に、オレンジの果実がぽんと映えている。
そのコントラストが、心をさらっていく。

街のあちこちに、猫たちの姿があった。
その存在が、この街のやさしさを滲ませていた。

階段の隅で眠る猫。
屋根の上からこちらをじっと見つめる猫。
観光客の足元をすり抜ける子猫。
井戸のある広場には、子猫たちが集まっている。
まるで猫だけの小さな世界をつくっていた。

歩いていると、カーペット屋の店主に声をかけられた。
「見るだけでいいからさ!」と陽気に笑う彼に誘われて、少しだけ店内に足を踏み入れる。
埃っぽい店の中、鮮やかな柄のカーペットを何枚も見せてくれた。
「日本人の友人がたくさんいるんだ!」と嬉しそうに話す。
「いつも買ってくれるんだよ!船で送っているよ!」
といくつも写真を見せてくれた。
商売っ気と親しみやすさが入り混じったその接客に、ちょっと笑ってしまう。
「本当に見るだけでごめんね」と行って店を出た。

その後も彼は街の至るところで見かけた。
(モロッコでは、こういう光景がこの後も何度もあった。)

街の折り重なる青と、朝日の白。鮮やかなオレンジ。真っ赤なバラ。
猫たちの毛並み。井戸の水しぶき。

どこを切り取っても、絵画の中に迷い込んだようだった。
見るたびに心が洗われる。そんな、美しい街だった。

